はじまりの答え
「どうしてこの焙煎機にしたの?」とよく聞かれます。
僕の答えはいつも同じです。派手さより、**“毎日飲みたくなる澄んだおいしさ”**を守り続けたいから。朝の一杯はそっと背中を押し、午後は思考のピントを合わせ、夜は一日の糸を静かにほどく。コーヒーは特別な日のごちそうというより、暮らしの真ん中で呼吸する存在。だからこそ、雑味がなく、香りはふくよかで、酸はやさしく、甘さが静かに残る一杯を、ぶれずに積み重ねていきたいのです。
小さな焙煎室の一角から(2018–2022)
最初の相棒は小型機“ディスカバリー”。小さな焙煎室の一角で、火加減のわずかな違いにも表情を変える小さな釜と向き合いました。排気の手応え、計器の針の揺れ、ドロップの瞬間の音——そのすべてがカップに返ってくる。ノートには何本もの線が重なり、湯気の向こうに**“やさしく澄んだおいしさ”**の輪郭が少しずつ見えてきた。いまの僕の手の感覚は、あの時間がつくってくれました。ディスカバリーへの敬意は今も変わりません。
役割が変わった日
やがて店を開き、卸やイベントが増え、求められるのは**「同じ味を、毎日・安定して・必要な量で」届けること。仕込みが増える雨の朝も、慌ただしい休日の開店前も、あの透明感と余韻を外したくない。その時、次の一歩が自然と見えました。選んだのがStronghold S7X Pro**です。
はじめて触れた瞬間
デモ機の前に立ったとき、パネルの灯りより先に指先がかすかに震えました。最初の一投目、クラッキングの粒立ちと香りの立ち上がりで——「あ、これだ」と喉の奥から声が漏れた。選ぶには覚悟と準備がいる。でも、その分だけ導入後の毎日が少し誇らしい。焙煎室に立つと背筋がすっと伸びて、「ここで焼かれた一杯には、ちゃんと根拠がある」と胸を張れる。
さらに、このブランドは世界の競技会の現場でも磨かれてきた“世界基準”のロースター。上位機種はWorld Coffee Roasting Championshipで公式プロダクション・ロースターとして採用されています。競技の舞台で求められる精度と再現性が、日常の一杯に届いてくる——その安定感を、僕は信頼しています。
一方で、日本での導入はまだ多くない。街で偶然出会うことは少ないからこそ、カップに宿る芯の通ったクオリティの違いを、よりはっきり感じてもらえるはずです。
S7X Proで何が変わるのか(味の話)
僕がこの機械で大切にしているのは、対流(ホットエア)と伝導(ドラム)を軸に、ハロゲンは“スパイス”として最小限に使うこと。必要な瞬間に必要な熱だけを真っ直ぐ入れ、入れすぎない。すると、
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香りのピークを逃さない(立ち上がりがきれい)
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後口の甘さまで一本の線でつながる(余韻がほどける)
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浅煎りは果実味がにごらず澄む
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ミディアム〜深めでも重たくならず、透明感を保つ
一言でいえば、“澄んだおいしさ”でありながら、物足りなさのない満足感。このバランスが、僕の答えです。
もう少し中身の話(プロ/上級者向けの技術ノート)
ここから先は、焙煎が好きな人へ。ディスカバリー期に育てた手の感覚を、S7X Proの設計思想に合わせて言語化しています。
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熱の役割分担:対流で芯温の立ち上がりと水分移動の“道筋”をつくり、伝導で面の焼き込みを整える。ハロゲンは**香味の輪郭を寄せる“ひと振り”**に徹する。
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投入〜黄変(前半):過剰な表面乾燥を避ける。対流優位で“道筋”をつけつつ、伝導は逃し過ぎない。
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メイラード(中盤):甘さの芯とボディの基礎作り。ハロゲンは徐々に弱めて、香りの密度を整えるだけ。
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クラック前後(後半):熱の入り過ぎで香りを潰さない。必要なだけ“当てて、抜く”。
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排気:香りの抜け道を常に意識し、香りのピーク→甘さの余韻が二項対立にならないよう調律する。
(より具体的なハロゲン運用方針を記しておくと、“スパイス”として最小限:0–1分は8%、黄変まで7~5、メイラードは5–1を、クラック直前1–0へ、クラック後はOFFで排気を強めに。主役はあくまで対流+ドラム。最終的な狙いは**ドロップ時の表面−内部の温度差≦20℃**目安。※生豆の含水・密度・環境で調整)
川越から、あなたの時間へ
僕にとって焙煎は、遠い産地の物語と、ここ川越の日々をつなぐ仕事です。
忙しい日も、静かな夜も、湯気の向こうに“澄んだおいしさ”の輪郭が見えると、胸の奥で小さくうなずく自分がいる。「今日の一杯が、誰かの一日をほんの少し良くする」——その確かさのために、S7X Proを選びました。
よかったら、まずは一杯
ここまで読んでくださって、もし少しでも気になったら——まずは一杯、飲んでみてください。
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店舗で:焙煎室の空気ごと、カップに落とし込みます。
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オンラインで:焙煎したてをお届けします。
カップの中で、答え合わせをしましょう。あなたの「こんな時に飲みたい」という声が、次の焙煎のヒントになります。


